生まれた子供に嫉妬する夫たち
生まれた子供に嫉妬する夫たち
カウンセリングから見えてくるストレスと暴力--信田さよ子氏(前編)
1、http://s02.megalodon.jp/2009-0108-0935-30/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?ST=life
2、http://s04.megalodon.jp/2009-0108-0937-12/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=2&ST=life
3、http://s03.megalodon.jp/2009-0108-0938-26/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=3&ST=life
4、http://s04.megalodon.jp/2009-0108-0942-59/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=4&ST=life
5、http://s01.megalodon.jp/2009-0108-0944-11/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=5&ST=life
カウンセリングから見えてくるストレスと暴力--信田さよ子氏(前編)
1、http://s02.megalodon.jp/2009-0108-0935-30/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?ST=life
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生まれた子供に嫉妬する夫たち
カウンセリングから見えてくるストレスと暴力--信田さよ子氏(前編)
1、http://s02.megalodon.jp/2009-0108-0935-30/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?ST=life「家族団欒」や「お茶の間」といった言葉が実感を伴わなくなって久しい。それどころか親が子を、子が親を殺す、引きこもる子の暴力に親が悩まされる、愛し合って結婚したはずの妻を夫が殴る、といった事件を見聞きすることが多くなっている気がする。
家庭は暴力を生むリスクの高い場所になってしまったようだ。殺伐とした家族の姿を見るにつけ、「愛情が足りないからこんなことになったのだ」と思ってしまう。
だが、長年ドメスティック・バイオレンスをはじめ、家族の問題に向き合ってきたカウンセラーの信田さよ子さんは言う。「愛情こそが暴力を招く」と。
愛があれば互いを慈しみあうと私たちは思っている。しかし、家族においては、愛が憎しみを招く呼び水になっているというのだ。いったい日本の家族には何が起きているのだろう。
--最近では「婚活」なる言葉も流行り、結婚がゴールインのように思われています。恋愛中は極端にいえば「愛情を感じられなくなったら別れる」といったように、自分の気持ち本位の関係でいられますが、結婚して家庭を持つとなると、気持ちだけでは維持できません。家族が楽しく暮らしていくには、何か事業をともにするなど、共通の目的や理想をもつほうがパートナーシップを築く上でよい気もしますが、いかがでしょうか?
信田:目標というのは家族の絆にも、リスクにもなりえます。同じ目標を共有しているはずでも、夫が「僕の妻だから当然」という理由で、家事などの負担を次第に強いるようになれば不満が募ってくるでしょう。
私の見てきた限り、うまくやっている夫婦は、男性が意識的に弱い立場をとっています。妻から「もう! パパはダメなんだから!」と言われているくらいがちょうどよい。どの家族も石原都知事一家みたいだったら大変ですよ。
石原良純さんの『石原家の人びと』を読んで、彼が天気と電車を好きになったのも頷けます。父親は毎回の食事にいちいち文句をつけるような人だったそうですから、息の詰まる思いだったでしょう。
会社で評判いい人が家に帰ると……
--先生は、カウンセリングでアルコール依存症の家族やドメスティック・バイオレンス(DV)の問題を扱ってこられました。家庭内の問題が起きると、父親を家長とする「伝統的な家族のモラルが崩壊したから世の中が乱れた」といった論を唱える人が現れます。そういう考えについてはどう思いますか?
信田:いわゆる「伝統的な家族」で育ち、その家庭で恩恵を受けた人なら、「自分たちがいい思いをしてきたから正しいことだ。最近、変な事件も起きているが、家族のあり方がおかしくなっているからだ」と考えて当然でしょう。
しかし、いま私たちが思っているような「男と女が愛し合ってつくる家族」は、ここ200年くらいで形成されたもので、歴史は非常に浅い。人々が思い描く典型的な家族像はどの時代を通じて存在したわけでも、普遍的なものでもありません。
--愛し合った者同士が家庭をつくる。そういう家族モデルへの信頼が弱まったから、腕力で家族を支配するような現象が起きはじめたのでしょうか?
信田:いいえ。妻を殴る夫たちの弁明は、「愛しているから殴る」です。彼らの言い分は、「自分は君のために懸命に働いて疲れている。なぜ家庭にいるときくらいゆっくり寛がせてくれないんだ」「本当に僕を愛してくれるなら、ちゃんと笑顔で出迎えてくれるのが当然だろう」といったものです。
つまり、「僕はこんなに彼女を愛しているのに、なぜ言うことを聞かないんだ」というわけです。彼らの理屈からすれば、妻が間違っているわけです。
2、http://s04.megalodon.jp/2009-0108-0937-12/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=2&ST=life
--なるほど。夫にとっての愛情とは、妻をコントロールすることなのですね。
信田:DVの加害者は、結婚してだいたい3か月後から暴力を振るい始め、家庭が暴力と支配の場になります。実際に暴力を振るわないまでも、多くの場合、結婚は男性を変えます。妻をめとる。あるいは父親となることで権力が倍増する感覚を身に付けるからです。
--「家庭を持ったことで責任感が出てきた」という評価もされますね。
これまでの経験で言えば、男性には、「殴る男」と「殴らない男」の二種類しかいません。外見で両者は判断できません。会社では、やさしくて評判がよくても、家庭ではまったく違う態度をとっている。見事に使い分けている例がたくさんあります。
外では社会正義を訴えているような男性が、家では暴力を振るっている。カウンセリングには、そういう“表向きの顔はいい夫”から「僕の妻なんだから、言わなくてもわかるはずなのに、なぜわからない」という理由でことばや身体による暴力を受けた妻たちが多く来ているのです。
オーバーラップする「支配」と「愛情」--恋愛を経て結婚するのは人生の自然な流れと多くの人は思っているでしょう。ただ、DVの事例は、その流れがいつの間にか所有と支配の関係に転化していることを示しているのですね。
信田:「所有や支配」と「愛」の境目はほぼ重なっていて見えにくいものです。だから、「所有や支配になってはいないだろうか」という、絶えざる意識が必要なのです。愛や親密さがたやすく暴力に転換するのは、近代の家族がそもそも孕んでいる、必然的な構造ではないかと考えています。
--確かに近代化の過程で、企業で夫が働き収入を得、妻が家事を担うといった、生産と再生産の分業を行うスタイルが標準的な家族として設定されました。
信田:ええ。つまり、経済力に勝る夫ならば妻に対しては“権力者”として、子に対しては“支配者”として振舞いかねない構造になってしまったということです。
普通の車でも200キロ近く出せるパワーがありますが、家庭もそういうものです。支配者になってしまうという自らの持てる力を自覚しておかないと暴走しかねない。
3、http://s03.megalodon.jp/2009-0108-0938-26/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=3&ST=life--そうはいっても、パートナーに対して「彼(彼女)は私のもの」という所有や支配の感覚に肯定感を抱き、うれしさを覚えるのも否定できません。
信田:そういう“甘い蜜の味”を否定しませんし、それはそれとしてある期間は存分に味わっていただきたいと思っています。
所有や支配の感覚が蜜の味でなくなるのは、「それは君の役割だろ」と自分の持っているフレームワークを強制したときです。
妻が子どもの世話をしていて、夫が「お茶が飲みたい」と言ったとして、「私も大変だから、あなたがいれてよ」と言ったときに「そうだね」と言えるかどうか。
特に出産し、妻が子ども優先になって、夫に構わなくなることに腹を立てることが多いようです。そう聞いても「そんなことはない」と思っている男性もいるでしょうが、「なんでこんな当たり前のことをわかってくれない」と怒鳴ったり、壁を殴ったりという例が本当に多いのです。
子どもが生まれたら、家族は夫婦二者の意図を超えた関係になります。これまでの関係性を質的に変化させる必要があります。
父親は父親を見て出来上がっていく
--殴ったり、蹴ったりすることがDVと思われがちですが、現行のDV防止法では怒鳴る、物を壊すなどの威嚇行為もDVと見なされます。威嚇したり、物に当たったりする根底には、「愛情のバロメーターは、夫であり父である自分の意図を妻が汲んでくれるかどうかで計れるものだ」という考えがありそうです。それが甘えや依存からくる支配であるという認識にならないのはなぜでしょうか?
信田:いろんな調査でわかってきたのは、世代連鎖の問題です。アメリカの調査ではDVを振るう男性の75%が、父が母を殴っている光景を目撃しています。
私が理事長をしているNPO法人RRP研究会は「DV加害者プログラム」を実施していますが、そこに参加している男性(加害者)のほぼ100%がDVを目撃しています。
--反面教師にして、「殴るまい」と思う人も、暴力に走ってしまう傾向があるのですか?
信田:もちろん、同じ光景を見てはいても、長じて殴らない人もいます。けれど、反面教師は容易に逆転することもあるのです。
大好きな母親が殴られているから、「絶対に自分は父親みたいにならないぞ」と人生の一時期で強く思う。問題は思春期以降です。男性性やジェンダー意識が確立される頃、そのモデルになるのは、やはり父親なのです。
憎んでいた父親とあるとき気持ちの中で和解してしまう。その後が恐いのは、「オヤジも辛かったんだよな。その気持ちは今となってはわかる」と言い出し、同じ道を歩きかねないからです。
4、http://s04.megalodon.jp/2009-0108-0942-59/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=4&ST=life--自伝小説や映画でも、幼少の頃、暴力的な父のせいで辛い思いをしたはずが、「愛情表現が下手だった」という解釈に落ち着く例をよく見ます。
信田:父と握手するかしないかは、思想性の問題です。今の世の中は基本的には、父を許すイデオロギーが主流なのかもしれません。父を否定してまで息子が生きていくのは困難なのでしょう。私は否定するほうが簡単だと思うんですが。
--父を否定するのであれ肯定するのであれ、身に付けるべき男性像は父によってもたらされる。だとすれば、「蛙の子は蛙」ではありませんが、男性が成熟の過程で身に付けた規範は、彼の将来において夫あるいは父として反映されることになりますね。
信田:規範の質を問うことなく、ただ身に付けて内面化すればいいのなら、成熟とは、すごく簡単なことですね。
DVや児童虐待でわかるのは、規範を破って暴力が生まれているのではなく、家族という規範意識の中で生まれているということです。昨年の殺人事件での死者は約150人で、家族による殺人が100人近い。そのうちの多くが親による子殺しです。家庭内での暴力は遍在しています。
規範にならないような暴力的な父がいるときに息子はどうするか。これは母と娘の関係よりも大変かもしれない。息子の規範意識を突き詰めたらかなりグラグラしていると思います。
暴力的でも仕事だけはしっかりやっていた父ならば、それを規範として、息子も仕事をしっかりやろうということになりがちです。いくつになっても仕事が父の代わりになっているのです。
家族は再生するもの
--お話をうかがっていますと、家族の形態そのものが暴力を生みかねないストレスの温床になっている気がしてきました。
信田:運用の仕方によります。家族はストレスの温床にも、癒される場にもなりえます。
放っておけば、家族は絶対に利得(メリット)だけを生み出すものではない。「これから結婚していい家庭を築こうと思っているのに嫌なことを言うな」と思う人もいるでしょう。ノイズとして、私の話を頭のどこかに残しているだけでも、自分が暴走しそうになったとき、我に返ることもあるのではないかと思います。
--先生が関わって、再生した家族の例があれば教えてください。
信田:大学1年生の息子が入学後、ひきこもって大学に行かなくなった。そういう相談で女性が来ました。いろいろ話を聞くうちに、夫の酒の飲み方が過剰なことがわかり、アルコール問題としてアプローチしようと思いました。
けれど、夫は一定量を飲むと記憶がなくなったり、怒鳴ったりして、部屋中のガラスを割ったことを翌日覚えていない。若い頃、妻は息子を抱いて泣いたことも多々あったから、息子は覚えているはずです。
夫は問題があるという自覚がないけれど、息子のためにカウンセリングにやってきて、週に一回飲まない日をつくることに同意しました。
5、http://s01.megalodon.jp/2009-0108-0944-11/business.nikkeibp.co.jp/article/life/20090106/181978/?P=5&ST=lifeところがカウンセリングに来ても、週に一度お酒を止めても、息子は学校へ行かない。カウンセリングの効果などないと思い、夫は「もう行かない」と妻に言った。その途端、暴力が激しい頃は出なかったのに、妻に初めてパニック発作が起きた。そこで私は彼女に戦略的に入院してもらうことにしました。
入院先から携帯メールで「あなたがいままで私にやってきたことはDVだと思います。いまも恐い。それを目撃してきたことが息子に影響しているかもしれない。だからDV加害者のプログラムに出てください」といった内容を彼女は数回にわけて夫に送りました。
--夫はどういう反応をしたのでしょうか?
信田:「俺はこんなに懸命に働き、息子ふたりを私立の学校で学ばせ、妻も専業主婦で好きにさせ、ヴィトンのバッグも買ってやった。それなのに俺をDV加害者だと言うのか」と怒ったので、彼女は「ますます病気が悪くなりました。しばらく退院できません」と告げ、本当に半年入院しました。
「あなたが自分の行動を変えようとしない限り、恐くて家に帰れません」という妻の言葉もあって、彼は加害者プログラムに渋々出てきた。
参加しながら彼は嫌な顔をしていましたが、そういう人ほど着実に変わっていきます。ああいう場で、「僕は妻に悪いことをしました」と流暢に反省の弁を述べる人ほど変わらない。
それまで彼は妻に命令口調だったし、息子にも「学費を払ってもらってなぜ行かない」と責めていましたが、一切そういうことを言わなくなりました。
昔は、「風呂!」とだけ言っていたのに、「先に入っていいですか」と言うようになった。そういう態度が定着していくのと並行して、不思議なことに息子は復学し、無事就職しました。現在、妻は夫の飲酒や言動に多少不安を持ちながらも、平穏に暮らしています。
(後編に続く)
(文/尹雄大、写真/風間仁一郎、企画・編集/漆原次郎&連結社)
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