私の児童虐待6 柳 美里

私の児童虐待6 柳 美里

1、http://s04.megalodon.jp/2009-1124-2133-00/g2.kodansha.co.jp/?p=1436
2、http://s01.megalodon.jp/2009-1124-2132-10/g2.kodansha.co.jp/?p=1436&page=2
3、http://s04.megalodon.jp/2009-1124-2131-32/g2.kodansha.co.jp/?p=1436&page=3
4、http://s03.megalodon.jp/2009-1124-2129-48/g2.kodansha.co.jp/?p=1436&page=4
5、http://s04.megalodon.jp/2009-1124-2129-07/g2.kodansha.co.jp/?p=1436&page=5
6、http://s02.megalodon.jp/2009-1124-2128-31/g2.kodansha.co.jp/?p=1436&page=6



1、
柳 私の子供も、学校でかなり問題を起こしているんですよ。
長谷川 それは子供の訴えで、本質を見失ってはいけない。子供にどうしてあげたらいいかと母親として考えていくと、負のスパイラルに陥ってしまって、親子で疲弊してしまう。まず、自分だと思いますね。
柳 問題行動も、やっぱり私が原因なんでしょうか?
長谷川 原因であって、責任ではない。柳さんは、自らそういう母親になりたくてなっているわけではなくて、見えざる強い力によって、そういうふうにさせられてしまっているんです。それを跳ね返してやろうじゃないかという方向に向かわなきゃいけない。私のせいで子供がこうなった、と考える発想には、もう振り回されてはいけない。学校からそういう情報ばかりがはいるっていうことは、その学校の先生たちが虐待の世界の難しさを理解していないことを物語っています。そのような好ましくない情報を保護者にフィードバックすることは、教育的に見ても逆効果です。
柳 でも学校としてはすごく困っているというか、例えば、みんなが大事に育てている畑の作物を引き抜くとか、器物を破損するとか、窓から墨汁を流して校舎の壁を汚すなどという事件を絶え間なく起こしているんですよ。
長谷川 その子はそういう形で、先生たちにSOSを出しているんですよ。さらに先生たちは、どういう環境で育ってきたかを、既に知っているんですよ。プロの教育者として必要な姿勢は、その子に対するケアと、その子の母親である柳さんに対するケアなんです。そういう発想が乏しいから、「母親でしょ、なんとかしてください」とか、「病院に行って診てもらってください」などと、すぐに言ってしまう。
柳 ADHD(注意欠陥・多動性障害)ではないかと言われました。
長谷川 ADHDにも三つのタイプがあります。先天的なもの、それから先天的なものに環境が加わったもの、さらに、純粋に環境要因によるもの。どれも症状としては似ています。一番多いのは、二と三かもしれませんね。ある発達障害の専門家は、環境要因によるものを、第四の発達障害と呼んでいます。環境要因によって発達障害様の症状、ADHDの症状が出るんです。
柳 長谷川さんのお考えだと、息子のADHDは、環境要因によるものだということですか?
長谷川 多分そうだと思いますね。

2、
柳 先天的なものじゃなくて?
長谷川 だって柳さんはじっと座っていられるし、集中できるし。先天的なADHDだったらできませんもん。最近は安易な診断に警鐘を鳴らしている医者もいますよ。たとえば教室で机に一時間座っていられないレベルでないと、ADHDと診断してはいけないという意見があります。安易な診断、ラベリングをしても解決につながりません。ADHDという診断が学校の先生たちにとって都合がいいのは、指導の責任を免れられるところでしょうね。だから最近は「病院で診てもらってください」と言われ過ぎる傾向にある。診てもらったら、あとはお医者さんやスクールカウンセラーとかそちらで、っていうふうになってくるんですね。結局一番欠けてしまうのは、そういった子供と一緒に暮らしている、育てて苦労している親のしんどさ、辛さへの理解です。お子さんは何年生?
柳 小学四年です。
長谷川 四年生。この年齢ですとお母さんが癒やされていくことによって、子供さんが変わっていく余地が大きいんですよ。だからこそご自身の心の傷を少しでも癒やすことに一生懸命になられたほうがいいと思う。
柳 息子は鋏で自分の髪を切るんです。いくら叱っても、私や先生の目を盗んでは、切るんですよ。
長谷川 それは柳さんが幼いころに、敢えていたずらされるような状況に身を置くのと、近いですね。
柳 嘘吐きなんです。「嘘吐き!」とひっぱたいても、「ほんとうのことを言いなさい」と泣いて頼んでも、嘘に嘘を重ねて、とんでもない創り話をするんですよ。
長谷川 「ほんとうのことを言いなさい」と言えば言うほど、ほんとうのことを言えなくなる。ほんとうのことを言っても合理化されて返ってくる体験を積んでいるからね。嘘は典型的なSOSのサインですよ。怒るのをやめてしまえば、お子さんはそういうことをだんだんやらなくなる。怒られるためにやっているようなものなんだから。

柳 学校でも嘘ばかり吐いて、先生を困らせています。
長谷川 それはその嘘に、先生が過剰反応するから。「何々君、いいよ。何々君の話は面白いからね」って、嘘をそういうふうにかわしながら受け止めれば、嘘の問題は解消していきます。
柳 私の母親は、もっと厳しくしなさい、と言います。
長谷川 うん、母親は厳しい中を耐え抜いたひとなのでね。
柳 母子家庭で、父親が、「締めるひと」がいないから、親に平気で嘘を吐くような真似ができるんだと。

3、
長谷川 正反対。正反対です。これは臨床経験だけでなくて、いろいろな実証的調査からも明らかなんですよ。締めれば締めるほど、引きこもって非社会的なタイプになるか、あるいは思春期になって行為障害と診断されるような、反社会的な方向にエスカレートしていくタイプになっていく。何も物言わぬ子になるか、それとも派手に騒動を起こす子になるかっていう傾向ね。締めるのではなくて、許す、認める、受ける。これらは、母性機能なんです。柳さん自身が母性に非常に飢えているんでしょうね。さらに、飢えているってことを自覚できないでいるんですよ。
柳 四十一歳の中年になった今でも、母性って必要なんですか?
長谷川 必要です。大人でも父性と母性、両方に育まれることは必要。その兼ね合いは年齢で変わってきますけれども。幼い頃に極端で一方的な、暴走した父性の中で育ち、また母性的な母の姿も知らない柳さんは、四十歳を越えても、母性というものが解らないぐらいに、本当は飢えているんだと思います。柳さんは、母性に育まれるっていう感覚、解ります?
柳 母性に育まれる?
長谷川 そう、それが体験されていないので、母性そのものが解らないんですよ。だから子供にも期待通りに接することができない、これは当たり前ですよ。
柳 母性って、みんながみんな持ってるものなんですかね?
長谷川 これは学習するものですね。母性本能というのは半分嘘で、本能ではない。
柳 母性に育まれたことがない人は、母性機能を持ち得ないんですか?
長谷川 母性を醸し出す、醸成することはできます。カウンセラーは、母性的存在なんですよ、基本的にはね。だからその人の問題は棚に上げておく。
柳 長谷川さんにもう一度お訊きしたいんですが、私は「虐待」を受けたんですか?
長谷川 虐待ですよ。柳さんはもう紛れもない、激しい、重度の虐待を受けて育ってきてるんですよ。それは認めてあげましょうよ。そんな中をよく生き延びてこられましたね。
柳 重度の虐待?
長谷川 虐待の専門家が言っているんですから(笑)。父親だけじゃなくて、母親からもですからね。
柳 母親も、虐待?
長谷川 たぶん今のは堪えるんじゃないですか? 母親が取った態度も非常に重い虐待だっていうふうに言われると。「かわいそうなひと」だと思っているわけですからね、母親のことを。でもここを乗り越えると救われるというか、真実に一歩近づくわけです、認められれば。だってかわいそうなんだもん、お母さん以上に、柳美里さんが。
柳 母のことを「かわいそう」と言っておきながら、自分が「かわいそう」と言われるのは、すごく嫌なんですけど。「かわいそう」と言われたりすると、反撃したくなる(笑)。

4、
長谷川 うん、かわいそうな自分というのを否認することによって、これまで強くたくましく生きてきたわけだからね。
柳 自分が親になってみると、父親には父親の、母親には母親の事情があったことが解るわけで……。
長谷川 事情? ちっちゃな子供にとって、大人の事情なんて関係ないですよ。ちっちゃな子供に、大人の事情を察しろって、そんなことを言えるの? 物心つくかつかないかの女の子に、事情をきちんと考えて、母親のフォローをすべきだって? マインドコントロールされている、洗脳されている……(沈黙)……ここで沈黙、困るでしょ? 今の沈黙。
柳 あ、今、何も考えてなかった……。
長谷川 思考がパタンと落ちてしまったね。このへんの話題、深みに近づいてくると……。
柳 外側の時間はどんどん経過しているのに、私の内側の時間はまったく経過していないっていうことですか?
長谷川 うん、時間はストップしたままのようですね。今、柳さんの顔はまるで幼い少女、それもとても穏やかであどけない雰囲気で溢れています。「何も知らないところからやり直したい」と訴えているように、私には感じられます。深みの一歩手前まで来てしまいました。今日の対話を振り返りながら、これからのことは柳さんが決めてください。頭で考えるのでなく、心に聴いてみて、ですよ。

二時間に及ぶカウンセリングを終え、なにか食べましょうか、とルームサービスのメニューを覗き込んでいると、長谷川さんに訊ねられた。
「柳さんは左利きですか?」
「右利きですけど……」
「そうですか……」
「どうして、左利きだと思われたんですか?」
「話をしているあいだ、ずっと左手で右手を攻撃してたんですよ。ひとさし指となか指を引っ張ったり、手の甲を爪で引っ掻いたりね。でも、わたしが『かわいそう』と言った途端に、手の甲を、こうやって、撫ではじめたんですよ、慰撫するみたいに……」
「……そういうところも見てるんですか?」
「言葉で言っていることは半分だけだと考えて、話を聞いているんです。言葉に出している以上のことを知りたいので、いろんなところを観察するんですよ」
言われてみれば、左手を使うことが多い。
携帯電話でメールを打つときは、左手で持って左手のおや指で打っているし、家の鍵を開けるときも左手で開ける――。

5、
わたしの父は、左利きだ。
遺伝説は(左利きと右利きの双子も生まれているため)信憑性がない、と言われているが、ふたりの弟も左利きだ。
わたしも、左利きだったのだろうか?
左利きの父を真似て、無意識のうちに左手を使うようになったのか?
それとも、左利きから右利きに矯正されたのか?
矯正したとしたら、左利きの父親ではなく、右利きの母親だろう。
母は、何故、ふたりの弟を放置して、わたしだけを矯正したのだろうか?(母は、きょうだい全員「受け口」なのに、何故かわたしだけに歯列矯正を受けさせた)
父の左利きについて母と話をしたことはないが、父と別れた直後に、こんなことを言っていた。
「美里が生まれたあとに打ち明けられたんだけど、柳さんは、色弱なのよ。信号の赤と青が判らないんですって。いまだったら、車の免許、完全にアウトなんだけど、大昔に取ったから、なんとか誤魔化して取れたみたいよ。他の車が走ってるときは走る、停まったら停まるって感じでやってるみたいなんだけど、柳さん、スピード狂じゃない? 乗ってるほうは怖いわよね。柳さん、IQは高いの、一六〇ちょいあるのよ。あんたの弟も同じくらいあって、横浜市で一番だったって、この前学校の先生に褒められたのよ。色弱は遺伝しなくて、IQだけ遺伝してよかったわよ。柳さんも、ちゃんとした教育を受けられてたら、まともな仕事に就くことができたのにね」
色弱やIQと違って、左利きは目に見える特徴で、かなりの数存在するから、母は問題にしなかったのだろう。
けれど、わたしにとっては、色弱やIQよりも大きな問題だった。
父は左利きだった。
父は、わたしを「ムチ」で打つときも、左手を使っていたのだ。
長谷川さんに「柳さんは左利きですか?」と訊ねられたとき、心臓に抓られたような痛みが走った。
食事を終えたあと、長谷川さんはおっしゃった。
「これからみる夢で、変わった夢をみたら、ちょっと憶えておいてください」
その夜は、珍しいことに、なにも夢をみなかった。
八月二日、わたしは、虐待をしてふたりの子どもを児童福祉施設に預けている同じ歳の母親に逢うために名古屋に行った。
家に帰り着いたのは、二十二時だった。

6、
髪を洗っている最中に悪寒がし、風呂からあがって熱を測ったら、三十八度二分もあった。
咳と鼻水もひどいので、ひとりでベッドの部屋で眠ることにした。
横になると、自分のからだに違和感をおぼえた。
ぴんと張り詰め、人型の枠に嵌められているような――、自分に馴染めていないような――、窮屈で息苦しい感じがした。
顔も、嫌だった。
ヘルメットのように頭部ごとはずして、どこか目につかないところに隠してしまいたかった。
死にたい、と思った。
その思いの強さに、怖くなって、呼吸が浅くも深くもならないように、主の祈りを唱える(ただし、祈りの言葉抜きで)リズムで一定の呼吸をくりかえしたが、恐怖は去っていかなかった。
午前三時過ぎ、わたしはベッドから起きあがり、明日も東京で取材だというのに、台所で強い睡眠薬を飲んで、ベッドに戻った。
数分で、眠ることができた。
いままで、睡眠薬を飲んで、夢をみたことはない。
だが、その夜は、夢をみた。
わたしは、ベッドに横になっていた。
現実のままの部屋、現実のままのベッド、現実のままのわたし――。
ベッドの脇にはだれかが立っていた。
黙って、わたしを見下ろしている。
姿は見えない。
声も聞こえない。
でも、男だということは判る。
黒い服を着た男――。
金縛りに遭っていて、体も顔も、目さえも動かすことができなかった。
わたしは天井を見たまま、泣いていた。
泣きながら、男に訊ねつづけた。
「わたしは、あと五ヵ月で、ほんとうに死ぬんですか? 助かる方法はないんですか? 五ヵ月しかないんじゃ、書こうと思っていた小説を書きあげることができません。せめて、書きかけの小説を書きあげるまで待ってもらえませんか? あぁ、息子に、タケに、五ヵ月後にママがいなくなるってことを、どういう風に伝えればいいんですか?」
男は、なにも答えてくれなかった。
男は、だれだったのだろうか?
死神?
父?



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by office-nekonote | 2009-11-24 21:33 | | Comments(0)


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