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続・児童虐待  柳美里第  6回 PART1

続・児童虐待  柳美里第  6回
カウンセリング第二日 長谷川博一氏(臨床心理士)との対話
「自分がうまく生きられない理由」
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続・児童虐待  柳美里第  6回
カウンセリング第二日 長谷川博一氏(臨床心理士)との対話
「自分がうまく生きられない理由」
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長谷川 昨日の話の中で印象に残っているところ、何かありますか?

柳 オールド・ワイズ・マン、老賢者の話が意外でした。あの夢の男は、私を脅かす存在なんじゃないかと思っていたので……。

長谷川 柳さんにとっては、そう思うのが自然なんでしょうね。基本的に、他者は自分を脅かす存在だと思っている。

柳 そうですね。だから、できるだけ交際範囲を狭くしているんです。付き合うと、やっぱり衝突の機会が増えるし……。

長谷川 対等に衝突しているという感じ? 衝突に対等性が感じられますか?

柳 いちばん多く衝突したのは、いちばん長く暮らした東由多加なんですが、彼の場合は二十三歳上で、十五歳のときに付き合いはじめたので、父親みたいな側面もあったとは思うんですが、上からものを言われたりすると、駄目でしたね。そうなると、怒りの制御ができなくなって、よく家中の食器や窓ガラスを叩き壊しました。
逆に、今いっしょに暮らしている彼は十五歳下なんですが、私が上からものを言うと、駄目なんですよ。ワーッと怒ると、台所とかトイレに走って行って、自分の顔とか頭とか腿とかを拳で殴りつけるんですよ。空手の有段者なので、もう目のあたりが腫れて、痣ができて、口から血を流すほど、自分をボコボコに殴るんですよ。

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長谷川 柳さんの身近にいるのは、みなさん、心で泣いてるひと、ほんとうは声をあげて泣きたいひとなんですね。自分の思いの伝え方や、生き方が不器用なひとが集まっている。べつに柳さんが逃げないように支配してるようなわけではないから、お互いの弱さというか、疵の部分で惹かれ合っているんでしょうか。
東さんにしろ、今の彼にしろ、心の内に闇を抱えているようです。その闇というのは、言い換えれば、疵で張り巡らされた塀の中に蹲っているみたいな感じ。悲しみよりも、怒りが前面に出てね、最も親密なひととのあいだで怒り同士がせめぎ合ってしまう。ほんとうは愛情で結ばれたいのに、その愛情というものが解らないんですね。
今日最初のお話、夢の男が自分を導いてくれる老賢者だったことが意外だったというね、それを確認できたということは、もう少しアクティブに闇に踏み込んでもいいのかなと、うん。昨日はやんわりやんわり、自分の心を自分で探してもらうということからはじめましたが、老賢者の存在を柳さんが認められたことで、なんとかやっていけそうな気がしましたね。

ただ、昨日の話で、それが外在化されたのがカウンセラーだとして、その要素の一部を私が担っているのだとしたら、夢の話に戻りますが、その男性との距離が近過ぎるとおっしゃった。「もう、あと一歩か二歩下がってもらえれば、嫌じゃなかったかもしれない」とおっしゃいましたよね。私の接近の仕方というかね、出逢い方が急過ぎたという感じはしますか?

柳 いえ。心の準備ができていなかったのに、仕事の事情で無理矢理逢ってしまった、という印象はないです。出逢うべくして出逢ったという感じです。むしろ、もっと早く出逢うべきだったと。

長谷川 でも、その距離の詰められ方が、想像以上に急で疲れるというのはありませんか?

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柳 う〜ん、でも、私にとって小説を書くということは、自分の疵のかさぶたを剥がして、疵口に指を突っ込んで、もう一度血を流して、もう一度痛むみたいな行為なので、一般社会で仕事をして、かさぶたを隠して、疵を負ったことを言わないでいる方たちとは違うんじゃないかと。決して特権意識を持っているわけではないんですが、書くことを仕事に選んだ十八歳のころから逃亡犯みたいに完全に孤立して、将来もない、居場所もない、誰にもなつかない、という野良犬みたいな生き方をしてきたので、自分に踏み込むことに関しては、躊躇いを感じません。虚勢というか、啖呵みたいなものかもしれませんが(笑)。

長谷川 ここまでカウンセリングを行ってきて、多少ショックを受けたところはなかったですか?

柳 うーん、そうですね……母親の言動が虐待の範疇にはいると指摘されたことですかね……。

長谷川 うん。柳さんは、かわいそうだと思っていたからね。

柳 彼女なりに精一杯がんばっていましたからね……。

理想の母親って、どんな母親なのか……

長谷川 でもそれ、ご自身にも同じことが言えるんじゃないですか? 過去の疵を抱え、仕事を抱え、我が子を他人に迷惑をかけない人間に育てたいという親としての願いを抱えて、精一杯がんばっているんじゃないですか?

柳 私は、それを息子に言ってしまっているんです。言うことを聞かなかったり、嘘を吐かれたりするたびに、「ママは、毎日毎日精一杯がんばってるのに、あんたはなんなのッ! ママの邪魔をするために生まれてきたのッ!」って……。

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長谷川 柳さんのお母さんは、柳さんに言わなかった?

柳 いえ、同じようなことを言ってました。それに気付いてゾッとすることがあります。

長谷川 柳さんは娘として「ママはかわいそうなひとだ」と思っていた。柳さんの息子さんも、「ママはかわいそうなひとだ」と思っているのかもしれませんね。

柳 それは……嫌ですね……。

長谷川 じゃあ、あの、昨日の文鳥の話なんですが、文鳥を通して自分の育て直し、生き直しをしたかったとしたら、ご自分は、どんな風に育ちたかったんですか? 過去に文鳥ではない鳥を疵つけたことがありましたね。でも、文鳥には、新しい、その鳥なりの人生を用意してあげたかった。こういう育ち方をできるんだよ、と鳥に新しい人生を成就させてあげたかった。じゃあ、具体的には、どういう人生だったらよかったんだろうか? どこが、どうだったらよかったんだろうか?

柳 あの父親とあの母親、という条件で?

長谷川 条件はなしで、ドリームを語っていただければ。こんな家で、こんな両親のもとで、こんな女の子として育ちたかったというね。

柳 ドリームですかぁ……いやぁ……考えたこともないですね、ドリームなんて……。

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長谷川 あの両親は、世界中に数ある両親の中でも、ある意味最強の組み合わせの両親ですよね。例外的な部類にはいるひとたちですよね。あの両親のもとに生まれて育ったということ自体、イレギュラーなのかもしれない。あの親でなかったとしたら、どんな親がよかったですか? どっちから行きましょうか? お父さん? お母さん? お母さんのほうがいいかな。何故かと言うと、お母さんに対してはまだ「かわいそう」という感情があるから。お母さん、あのかわいそうなお母さん、あれは、理想のお母さんですか?

柳 (深く息を吸って)でも、理想の母親ってどんな母親なのか……私には、小学校、中学校、一年で退学になってしまった高校を含めて、家に遊びに行けるような友だちがいなかった……よそんちのお母さんって、授業参観でちらっと見るぐらいじゃないですか……唯一、よく家にあがったのは、同級生の女の子がいた隣の大家さんちなんですけど、私は、幼稚園のころから小学四年で引越すまで、その家のお父さんにイタズラをされていたんです……その家のお母さんというのが、物静かな感じの美人で、洋裁が得意で二人の子どもの服や帽子はぜんぶ自分で拵えてるっていうスゴイひとで、ハンカチや弁当包みにもヒヨコやクマの刺?がしてあるんですよ。お料理も上手なんです。おやつはいつもお手製のクッキーやケーキでしたからね……でも、私はそのお母さんが笑ってるのを見たことがないんです……怒ってるのも、泣いてるのも見たことがない……そのお父さん、酒乱だったんです。酔って帰ると、大家さんちから罵声と悲鳴が聞こえて……あぁそうだ、お母さんの顔に赤紫の痣があったこともありましたね……だから、なんて言うんでしょう、子どものころに、どんなに幸せそうに見える家庭の中にも不幸はあるんだということに気づいていたというか……かえって、どこからどう見ても不幸な我が家のほうが嘘がない分マシだ、ぐらいに思ってたんじゃないかな……。

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長谷川 その大家さんの家も、大変な家だったんですね。ひと言でいうと「秘密のある家」なんですよ。秘密を隠蔽し維持するために、家族一人ひとりがそれぞれの役割を担っている。お母さんは、料理や洋裁で子どもに手をかけることによって、子どもを愛しているかのように演出している。でも、それは「かのように」であって、料理や洋裁に没頭することによって、家の内のドロドロした面から目を背けていることになるんですね。「否認」という防衛機制が働いているわけです。そして、大抵の場合は、自分の夫がそういう秘密を持っていることに気づいているんですよ。

柳 あのお母さんが、気づいてた? 気づいてて、黙ってたんですか?

長谷川 このテーブルの上にはアップルジュースがある。もちろん、視界には入っている。なのに、「テーブルの上に、何か置いてないですか?」と訊くと、「何もないです」と答える。見ようともしないで、「ないです」と言ってしまうんですよ。そして、それにまつわる自分の思いや感情も認めない。思いや感情があるということになると、事実がないということが破綻してしまうからね。否認と合理化はセットになっているんですよ。
柳さんは、自分の母親に対しては「かわいそう」という思いしかなかった。別の感情、負の感情は否認されている可能性がありそうです。そして父親に対する感情がない、ということは母親の場合よりも強い否認が働いている。れっきとした事実でも、感情を飛ばすことによって、その一部は、認識から逃れられる。事実でも、全てを生々しく覚えているわけではない。問題とすべきは、そういった事実に付帯している思いなんですね。それで、今日は理想のお父さん、理想のお母さんのもとで、どんな風に育ちたかったんだろう、と柳さんの思いをお訊ねしたかったんです。

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by office-nekonote | 2010-02-10 00:07 | | Comments(0)


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