続・児童虐待  柳美里 第6回 PART3

続・児童虐待  柳美里第  6回
カウンセリング第二日 長谷川博一氏(臨床心理士)との対話
「自分がうまく生きられない理由」
13
14
15
16
17
18



続・児童虐待  柳美里第  6回
カウンセリング第二日 長谷川博一氏(臨床心理士)との対話
「自分がうまく生きられない理由」
13
柳 うーん……十四歳までの私は、母の期待を担えるだけ担ってたんです……私が入学したのは、大家さんちの離れに引越す前に住んでいた、借家の近くにあったミッションスクールなんですよ。母は、赤ん坊だった私をおんぶして、学校のテニスコートを覗き、白いスコートを穿いてテニスをする女学生たちを眺めていたそうです。で、娘をこの学校に入れて、テニスをやらせようと決めたそうです。私は、母がキャバレーで稼いだ金で進学塾に通い、第一志望だったその女子校に合格しました。もちろん、テニス部にはいりました。私には、どこの学校にしようとか、どこのクラブにしようとか、そういう選択肢はなかったんです。

「母も孤立無縁だった」
「それは大人の柳さんの判断」

長谷川 お母さんの希望通りに仕立てられていった。柳さんの願望はどこへ行っちゃったの?

柳 私の願望ですか? でも、私自身も、小学校で激しいイジメに遭っていたこともあって、地元の公立は嫌だ、新しい人間関係の中でやり直したい、人生をリセットしたい、と思っていたんですよ。

長谷川 それは願望と言えるものでなく、こっちは避けたいという程度に過ぎないですよね?

柳 母をかばうつもりはないんですが、母も孤立無援だったというか、あのぅ、母は七、八歳のときに母親に棄てられて、継母に育てられたんですよ。継母は継母で、自分の子どもと、継子である母たちを徹底的に区別したらしくて、辛酸を嘗めてるんですよ。きっと、母の中にも、かくあるべき母親像というものがなかったんだと思います。

14
長谷川 それは大人の柳さんの判断で、子どもの美里ちゃんは、そんなことを考えない。

ここが、最初に越えなくてはならない大きな壁になると思います。美里ちゃんの魂を、美里ちゃんだけの魂を、ガッ、ガッ、ガッと疵つけながら、殺してしまう寸前まで痛めつけた。美里ちゃんの魂をここまで痛めつけたのは、お母さんなんですよ。
ほんとうなら、学校でイジメられたり、隣の家のおじさんにイタズラされて帰ってきたりしたら、美里ちゃんを優しく抱っこして、「美里ちゃん、どうしたの?」って……「あのね、あのね……」って美里ちゃんがなかなか言えなかったら、「お母さん、どんなことがあっても美里ちゃんの味方だから、話してごらん?」って……それで、美里ちゃんが「こんなことされた。こんなこと言われた。すごく痛かった。すごく嫌だった。すごく苦しかった」とお母さんに打ち明けたら、「痛かったね、嫌だったね、苦しかったね」といっしょに泣いてくれて、「話してくれてありがとう。お母さんはね、美里ちゃんのこと大好きよ」と抱きしめてくれる、美里ちゃんのお母さんは、そんなお母さんであるべきだったんじゃないですか?

柳 でも、なかなか、みんな、こうあるべきだ、というものにはなれないですよね。

「母性」が何か解らない

長谷川 まぁ、そこまでやってあげられるお母さんというのは、現実的にはいないに等しいのかもしれないけれど、理想のお母さんというものがあるとしたら、その対極が、柳さんのお母さんなんじゃないですか? 子どもを育む親とは対極の、子どもを疵つける親、子どもの魂を奪う親です。
お母さんのことを、これだけ酷評されると、どんな気持ちになる? 堪えられる?

15
柳 う〜ん、そんなに親しいわけじゃないからね……九年前に母が住む鎌倉に引越して、ときどき息子を預かってもらったり、月に何度か夕ご飯を食べに行ったりしてますけど、十五で家を出て、三十二で息子を妊娠するまでの十六年間、東さんと同棲してたってこともあるんですけど、まったく音信をとらなかったんです。電話一本しなかった。文学賞の授賞式会場で何年かぶりに顔を合わせて、ずいぶん老けたなって、その程度の関係でしたからね。

長谷川 子どもが母性に育まれる期間というのは、そう長くはないんですよ。生まれてから思春期がはじまるまでの十年ちょっと。柳さんは、その時期に「母性に育まれる」という経験をしてこなかった。だから、母性が何か解らない。

柳 母性が何か解らないから、母親としてうまく接することができないんですね。

長谷川 うん。母性が何か解らないひとがうまく接しようとしてもね、母性的に接しようと努めれば努めるほど、母性が解らない心は軋んで、その軋みが自分の願いとは正反対の形で暴走してしまう。それが、柳さんの今。今に目を奪われてはいけないんです。今の中から問題点を拾いあげても、問題の本質を見つけて解決することにはならない。

柳 母性ですかぁ……やっぱり解らないのかなぁ……。

長谷川 柳さんご自身が、母性に飢えているんです。柳さんは、もっと適切な母性と父性のバランスの中で育まれるべきだった。そういう家庭に生まれてくるべきだった。実際、適切な母性と父性に育まれ、そういう家庭ですくすくと育ち、もう少し楽な人生を歩んでいるひともいる。不公平じゃないですか?

16
柳 でも、そんなひとって、いるんでしょうか? この世に存在する一つ一つの家庭を取材して歩いたわけじゃないから、はっきりしたことは言えないけど、みんな、いろいろな問題を、もちろん大したことないものから深刻なものまで程度の差はあるだろうけど、どの家庭も秘密や問題を抱えてるんじゃないでしょうか? そんな夢みたいな人生を送ってるひと、いないんじゃないかな?

長谷川 それは今の柳さんの認識上いないということなんですよ。美里ちゃんの心で願望としての家庭を描けるようになったら、初めて、自分が育った家庭を嘆くことができるかもしれない。まだ、嘆くことができないんですよ。自分を責めることは得意なんですけどね。そして、息子さんとの関係で自己嫌悪に苛まれる。「自分が悪いんだ。自分なんていなければいい。消えてしまいたい」と思う。でも、肝心の自分を慈しむこと、自分に優しくすることが、柳さんにはできない。優しくされた、慈しまれたことがないから、それがどういうものか解らないんですよ。

同居人の彼を息子がかばう

柳 それはアレですか、同居している彼に対して厳しく接してしまうのも、そういうことが原因となっているんでしょうか?

長谷川 うん。知人程度ならいいんですが、心の距離が近づいてくると、お互いに、相手の自分と違うところを尊重し合わないとやっていけませんよね? けれど、柳さんも彼も、尊重し合うことに関して不器用なんじゃないですか? 意見の主張し合いがエスカレートして、自分の思い通りにならなくて感情が爆発してしまう。

17
柳 今、息子が彼をすごくかばってるんですよ。私が彼に不満や怒りの矛先を向けようものなら、「ママ、それは心の中で思ってるだけにしな。お兄さんには絶対言っちゃ駄目だよ、喧嘩になるから」とか注意するし、私が彼を怒鳴りつけると、「お兄さんは、言わなくてもわかってるって!」とか「お兄さんは、嫌だって!」とか、完全にあっちの味方につくんです。

長谷川 息子さんは、小学校時代の柳さんと似ていますね。同じ役割を担っている。大人の世界を生きている。大人の理屈で判断している。大人の目で物事を捉えようとしている。それでも、今の柳さんにとっては息子さんの問題に目を向けるのは、時期尚早です。

柳 でも、今、長谷川さんは、息子が子ども時代の私と同じ役割を担っているとおっしゃいましたよね? そうすると、息子が、大人になって、結婚して親になったら、やっぱり、今の私みたいに自分の子どもにどう接していいか困るようになるんでしょうか?

長谷川 でしょうね。今後、息子さんに救いの手がはいれば別ですが。

柳 救いの手というのは、第三者ということですか? 同居している彼ではない? 彼は息子の支えにならないんですか?

長谷川 うん。だって、息子さんが彼に加担しているということは、それだけ彼をモデルとしてね、同一化していく度合が高いということにもなるんですよ。男の子は身近な男性をモデルにしてアイデンティティを形成しやすい。で、息子さんがモデルにするのは、怒りの矛先を自分に向けて、自分の顔や体を殴りつけるという彼の自虐的なスタイルですよ。それは、つまり、悪いことをして叱られる、という今の息子さんのスタイルと裏腹な関係にあります。息子さんは、すでに叱られるために敢えて悪いことをするという、大人との自虐的な関係性の中で生きているんですね。おそらく息子さんは「ぼくは叱られる子なんだ」という自己信念を作りかけている。その信念を崩すためには、どんなに悪いことをしても、どんな嘘を吐いても、叱らないという処方箋が出てきます。嘘を吐いても叱られなかったら、それまでのパターンは崩されて嘘は吐けなくなる。

18
柳 う〜ん、でも……叱られたがっているとは思えないんですけど……叱られるのは嫌だと思うんですよ……。

長谷川 ううん。息子さんは叱られるのが当たり前だと思っているんです。叱られることによって安定する。叱られて、泣いて、親や教師に「おまえは嘘吐きだ」と何度も念を押されて、「ぼくは嘘吐きだ」と再確認する。そして、そういう不安定の中で安定してしまう。

柳 でも、叱ると、泣いたり、怒ったり、ヒステリーを起こしたり、とても安定しているようには見えないんですが……。

長谷川 もちろん安定には見えません。するな、するな、するなと言われつづけると、その「するな」と言われたことに対して、自分はするんだ、する子なんだ、する子なんだ、と自分に言い聞かせていることになる。嘘や悪いことを「するな」と言われれば言われるほど、禁止されたことを能動的にやるかのように繰り返して、表面的に不安定になって終結するんですよ。

柳 う〜ん、その「するな」と言われていることが反転してしまう仕組みが、いまいち解らないんですけど……。

長谷川 日々起こることで、この「繰り返し性」が強化されていく。自分は「悪い子」なんだ、自分は「嘘吐き」なんだ、という自己像を補強していることになります。

貼られたラベルの補強を止めるために

柳 その自己像は、学校で「嘘吐き」と言われていることでも、補強されてしまっているんでしょうか?

[PR]
by office-nekonote | 2010-02-10 00:23 | | Comments(0)


たまちゃんの その日暮しの手帳


by office-nekonote

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

カテゴリ

全体
災害救助
うちの催し物
お勧め催し物
アディクション
AC
子どもたち
暴力
児童虐待
教育
発達障碍
メンタルヘルス
ジェンダー
CAP

映画・美術
その日暮し
政治経済
ねこまんま
ヘブンリー・ブルー2010
ヘブンリー・ブルー
ヘブンリー・ブルー2011
ゴーヤ2011
サブカルチャー
ネコマンガ
ほぼ今日のお言葉
DVの根絶のための掲示板の記録
虐待世代間連鎖の掲示板の記録
ねこまんま倶楽部の記録
貧困
未分類

以前の記事

2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
more...

お気に入りブログ

ウラゲツ☆ブログ
NANO-GRAPH BURO
『心の家出』
のんびりのびのび
ばーさんがじーさんに作る食卓
Cream's Blog
世界が変わる わたしのお...
毎日チクチク
AAセクシュアルマイノリティ
あるのすさび
アル中ララバイ
出会いの瞬 M...
猫の手通信・ニュースデータ
パンドラの希望を
marimo cafe
アルでHyde
アスペルガーな日常
アルでHydeの研究室
alNOVELS  遥か...
海王の散歩道
猫の手通信・お料理メモ
今日のスイーツ、なに?
猫の手通信・猫のカーテン
月の満ち欠け
猫つぐら家のごはん日記
子猫の手通信
おひるねTIMES
リカバリー・ダイナミクス...
実時間 (what's ...
SAFER

最新のコメント

これはこれは長先生、先生..
by office-nekonote at 23:17
このたびはARASHIを..
by 長徹二 at 04:55
これは私の替わりに行った..
by office-nekonote at 14:44
上岡はるえのことを冷静に..
by あきこ at 02:42
お返事大変遅くなってごめ..
by office-nekonote at 23:02
( ̄ω ̄)ブヒヒッヒブヒ..
by black-board at 22:26
メッセージありがとうござ..
by office-nekonote at 14:34
たま猫さんのブログを読ん..
by 匿名 at 19:27
丁寧に説明してくださって..
by office-nekonote at 12:14
説明不足があったので、再..
by tojikomorianony at 07:54
アディクションとは体も精..
by tojikomorianony at 01:20
こちらこそよろしくお願い..
by office-nekonote at 23:26
今年もよろしくご指導お願..
by アポ at 13:54
アスペの上に人格障害が重..
by office-nekonote at 23:42
のえりん様、人格障害でも..
by office-nekonote at 22:06

検索

タグ

ブログパーツ

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

日々の出来事
メンタル

画像一覧