続・児童虐待  柳美里第  6回 PART4

続・児童虐待  柳美里第  6回
カウンセリング第二日 長谷川博一氏(臨床心理士)との対話
「自分がうまく生きられない理由」
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続・児童虐待  柳美里第  6回
カウンセリング第二日 長谷川博一氏(臨床心理士)との対話
「自分がうまく生きられない理由」
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長谷川 そうです。「嘘吐き」というラベリングをされると、自分でもそのラベルを見ちゃうんですよ。あぁ、ぼくは「嘘吐き」なんだとね。で、半自覚的あるいは無自覚的に「嘘吐き」な自分を証明するかのような行動をとらざるを得なくなる。

柳 どうして、「嘘吐き」のラベルが嫌だから、「嘘吐き」のラベルを剥がして見せよう、ということにはならないんでしょうか?

長谷川 いったんラベリングされると、払拭できるものだという発想が生じにくいんです。子どもは、貼られたラベルが正しい、と納得するしかないんです。そのラベルを疑わないまま成長すると、大人になっても同じことが起きるでしょう。それで今、柳さんは息子さんとの関係で困り果てているでしょ? ラベリングの過程やメカニズム自体が本人に自覚されませんし、嫌だから剥がそうなんて単純に済む問題ではないんです。
今はまず、ラベリングの補強を止めるために、現状はよしとするしかない。しばらく繰り返すと思いますが、今は、息子さんがどんなに悪いことをしても、どんな嘘を吐いてもよしとするしかないんです。オーケーです。そして、そんな息子さんをよしとする自分にもオーケーを出す。

柳 でも、八月一日の第一回目のカウンセリングでもお話ししたんですが、学校でも、つぎつぎと問題を起こすんですよ。今、学校で問題になっているのは、体操服を忘れたと嘘を吐いて体育を見学する、ということなんですよ。今度、個人面談で話し合いを持たなければならないんですが、「よし」とするわけにはいかないし、「ご家庭でも、よく言って聞かせてください」と言われれば、「嘘を吐いてはいけないよ」と言って聞かせるしかなくなりますよね。

長谷川 「ご家庭でも、よく言って聞かせてください」という、これがね、子育てで四苦八苦している母親たちを追い詰める、そして子どもへの縛りを強くする悪の囁きなんですよ。教育のプロを名乗るからには、子どものそういった問題行動の背後には様々な事情があるんだということに配慮してほしい。教師は個々の事情に眼差しを注ぐ必要があると思う。

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児童虐待の最も悲しい事件にも、学校の無知、学校からの不適切な保護者への圧力が関っているケースがかなりあるんですよね。もし、息子さんの担任の先生が、「息子さん、ときどき見え見えの嘘を吐くんですよ」「でも、私は毎日息子さんと接していて、息子さんの心の痛みが解るんです。だから単純に叱ることはしません」「私は、息子さんのことを大好きですよ」と言ってくれれば、お母さんとしては、かなり楽になると思う。楽になったら、楽な顔になるでしょう? お母さんの楽な顔を見れば、息子さんもちょっと楽になる。

今回のカウンセリングのスタート地点ね、連載の副題にもなった「なぜ私は愛するわが子を叩くのか」なんですけど、わが子を叩かない親になる、というのは目的ではないんですよ。

柳 目的ではないんですか?

長谷川 結果としてね、気がついたら、子どもに対して怒りをぶつけたり、手を上げたりする回数が減ってるな、と、そういう風に終われるといいですね、ということなんですよ。

柳 あのぅ、問題は家庭の中だけに留まらないんです。私は、ひととの関りを最小限に留めているんです。ごくごく限られたひととしか関りを持たない。近所付き合いもしてないし、授業参観や個人面談には行くけど、そのあとの親睦会には参加しないで、こそこそと逃げるように教室をあとにしている。

長谷川 いいじゃないですか。

柳 えっ、いいんですか?

長谷川 いいです。そういう自分を許してあげる。つまり、オーケーだと認めてあげる。

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柳 でも、あの……オーケーだと認められないこともあるわけで、たとえば、同居している彼が自分の顔や体を殴りつけますよね? 私は、何度もお願いしてるんですよ、そんなことをするのはやめてくれと。金切り声をあげて、泣き叫んで、お願いだからやめてくれと。でも、いくらお願いしてもやめてくれない、それも、オーケーなんですか? 私は、堪えられないんですけども。オッケーなんて思えないんですけども。

見守りながら「いいよ」と

長谷川 彼には何度も頼んでいるんですよね?

柳 何度も何度も頼みました。

長谷川 頼んで、その効果はありましたか?

柳 ……ない、ですね……。

長谷川 ということは、頼まないほうがいい。

柳 顔に青痣ができても、拳から血を流していても、口中血だらけでも、見て見ぬふりをしろということですか?

長谷川 オーケーというのは、見て見ぬふりをするということではなくて、見守りながら「いいよ」と言う。「いいよ」と声に出すわけではなくて、「いいよ」という構えで接する。つまり、そうせざるを得ないあなたが今ここにいる、ということを認めるということなんですよ。

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たとえば柳さん、昨年の二月、柳さんのお宅に児童相談所の福祉司がやってきましたよね。そのときにですね、「息子さんを叩きましたか? どこを何発叩いたんですか?」と詰問されたり、「あなたは母親として間違っています。ここが間違っているから、こう変えましょう」と指摘や助言をされたら、柳さんも頑なに拒絶するでしょう。でも、もし、「そうせざるを得ないご事情がおありなんですね。お気持ちは解りますよ。きっとお辛いんでしょうね」と言われれば、相談してみようという気持ちになるかもしれないじゃありませんか。心の風向きを変えるのは、そういう言葉なんですよ。

今の彼に対しても同じです。息子さんに対しても同じ。今起きていることに対しては、スタートはオーケーなんです。家族との関係、近所のひととの関係、教師との関係、ほかの保護者との関係、編集者との関係、全ての人間関係に困惑し、すごく不器用に、それでも精一杯生きている柳美里さん、私は素晴らしいと思いますよ。尊敬します。

「対人関係も全部変わると思う」

柳 あの……つまりそれは……私の、今の現実がありますよね? 私が困っているのは、目の前に在る現実なんですよ。家に帰ると、息子がいて、彼がいる。外に出ると、近所のひとと会う。息子が通っている学校の、先生やほかの保護者とも付き合わなければならない。仕事では、編集者とのやりとりがある。でも、今の、この現実の人間関係を改善するためには、今に目を向けてはいけないということですか?

長谷川 おそらく今に対しては、過去に何度も改善を試みられたのではないでしょうか? しかし、改善しようとすればするほど、改善できない。最終的には、「どうして解ってくれないの?」「どうして嘘を吐くの?」「どうしてこうなるの?」と感情をぶつけて終わってしまう。今だけを見て修復を目指しても、なかなかうまくいかないんです。

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ですから、今の柳さんには想像すらできないような子ども時代の願望、不満、それを探す旅をしようと思っているんですよ。オールド・ワイズ・マンの存在が支えになると思いますしね。

今回の作業がうまくいったら、柳さんの今後の人生は真逆になるかもしれません。

柳 真逆? 真逆というのは、えーっと……。

長谷川 外的現象ではなくて、柳さんから見た世界の見え方、人物一人ひとりの見え方がガラッと変わると思う。

柳 対人関係も?

長谷川 全部変わると思う。八月一日のカウンセリングで、「トラウマにピリオドを打つことなんてできない」と言いましたね。図形に喩えるなら、ピリオドに隠れて、ちょうど円錐形のように奥に広がっている世界があるわけです。円錐の頂点だけを見て「ピリオドを打った」と勘違いしてしまう。頂点が置かれる二次元世界に目を奪われている以上、単純な「点」にしか見えない。簡単に点を打てるように錯覚してしまう。でも実は、もう一つ奥行きというZ軸があって、その奥にはこぉんな大きな世界が放置されたままになっている、っていう感じです。

柳 でも……起こってしまったことは、変えられないですよね? 起こらなかったことには、できないわけですよね?

長谷川 その起こってしまったことというのは、どのあたりのことを指しているんですか?

柳 小さいときから今までの……四十一年間生きて、起こってしまったことというのは、もう変えられないわけじゃないですか……。

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長谷川 それは事実としては変えられないけれど、事実に対する心理的な意味づけは変えられるでしょう。過去の実際の出来事が重要なのではなくて、それに付帯しているはずの心理的事実、それを探し出して、私はあのときこうだったんだ、と捉え直すことはできる。

柳 私はずっと、どうやったらこの現状を打破できるんだろうか、というところでもがき苦しんでいたんですよ。

長谷川 柳さん、現状という誘惑に敗けないでください。出来事に目を奪われ過ぎると、心に思いを巡らせることができなくなってしまいます。柳さんの場合は、自分の心を思い描くことすら、まだ覚束ない状態なので、どうしても、目の前で展開されるトラブルに目が向かってしまいがちですね。これはある意味、麻薬ですよ。目の前に見えるものに囚われ過ぎないでください。

柳 自分の心を思い描くことすら覚束ない状態なんですか、私は……。

長谷川 ここで、柳さんにとって一つの戦略になるのは、夢ですね。今後は、微睡んでいるときに、ふっと何かが現れたりよぎったりする白昼夢のような体験をするかもしれない。この問題に関しては、頭で追究しようとするのではなく、ぷくっぷくっとあぶくのように湧いてくる心底の動きをキャッチしてみましょう。そして、それをヒントにして心と頭の両方で感じ考える。その積み重ねで、最後には柳さんのものの見方、解釈の仕方、そしてひととの折り合いのつけ方まで、あらゆるものとの関り方がシフトする可能性があります。

今日は、このあたりで終わりにしましょう。

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by office-nekonote | 2010-02-10 00:31 | | Comments(0)


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