私の児童虐待 最終報告 高校中退以来、26年ぶりの父との対話1  柳美里

私の児童虐待 最終報告
高校中退以来、26年ぶりの父との対話  柳美里

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私の児童虐待 最終報告
高校中退以来、26年ぶりの父との対話  柳美里

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第2回

1. 長谷川博一
2. 長谷川博一(はせがわ・ひろかず)
3. 1959年生まれ。東海学院大学教授。心理療法、犯罪心理学(鑑定)、児童虐待、家族病理、自殺・自傷行為を専門とする臨床心理士。秋田連続児童殺害事件で畠山鈴香被告の心理鑑定を行う。『子どもたちの「かすれた声」』など著書多数

長谷川 今回は、どうしてお父さんと、なのでしょうか? それが、すごく不思議なんですが。
柳 私は、母について家を出てから三十年間、父とほとんど接点を持っていません。接点を持つことを避けてきた、と言ったほうがいいかもしれません。この機会を逃したら、二度と接点を持つことができない気がするんです。
長谷川 接点を持ちたいですか?
柳 作家として。
長谷川 アイデンティティがありますよね。
柳 傍から見たら、書く材料として必要だからだろうとか、老いた父親を利用するつもりかとか、そういう風に非難するひともいるんじゃないかと思うんですが、そう単純でもないんです。私は、長谷川さんもお気づきになられていると思いますが、話すことが極端に苦手です。書くことが得意だから作家という仕事を選んだのではなく、話すことが苦手だから、書くという仕事しか自分には残されていなかった、というのが正直な実感です。ですから、父と私との関係を探るとしたら、やはり、それは書くことによってしか、見つけられないと思うんです。
長谷川 お父さんと最後に対面したのは、いつですか?
柳 私の文学賞の授賞式や、弟や妹の結婚式で型通りのあいさつをしたことはありますが、それは、他人の目を意識して「父親」の型に自分を無理矢理押し込んだだけですからね。最後に対面したのは、高一のときです。退学届を提出するのに、保護者同伴でなければいけないと言われて、いっしょに暮らしていた母が絶対イヤだと言うんで、別れて暮らしていた父にお願いするしかなくって、セーラー服姿で、父が勤めていたパチンコ屋にはいっていって、いちばん奥の景品カウンターで父を呼び出してもらったんです。黄金町の京浜急行のガード下の小さな店で、生姜焼定食を食べながら、退学処分になったことを、父に打ち明けました。
長谷川 そのまま、シャットアウトしたままでもいいんじゃないかなという気もするんですけど、何故この時期に対面したいと思われるんでしょうか?
柳 一つには、長谷川さんという、己は語らず、他者を語る、つまり軸となる存在がいる、ということも大きな動機になっています。もう一つは、父の年齢です。父は、今年七十三歳になります。平均寿命はあくまで平均に過ぎないわけですから、私より長生きする場合だってあり得るわけですが、もし、このまま、なんの接点も持たないまま、父に死なれてしまったら、ものすごい心残りになるんじゃないかなと……。
長谷川 うん、心残りという言葉が今、ずしんと響いたんですけど、何が心残りなんでしょうか?
柳 私は、父のことを、なにも知らないんです。
長谷川 お父さんの、なにを知らないんでしょうか?
柳 たとえば、父の父母がどんなひとだったか? どんな風に育てられたのか?
長谷川 お父さんが育った家族ね。
柳 何故、日本に来たのか? 何故、母と結婚したのか? 何故、家庭を崩壊させるまで博打にのめり込んだのか?
長谷川 何故、生活苦のなかで、犬や猫や莵や鳥や亀などのたくさんの動物を家に集めたのかとか?
柳 それらのことを、父が語る言葉で聞いてみたいんです。
長谷川 それらを知ることは、柳さんにとって重要なことなんですか?

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柳 重要なことのような気がする。父に関することが空白だと、その空白が、なんと言うんでしょうかね、常に空白ではない部分を圧迫し、脅かしている感じなんです。空白につきまとわれている……。
長谷川 情報で空白を埋めたいんですか?
柳 父は、ものごとを大袈裟に言う癖があります。大袈裟に言うだけではなく、も多いです。ですから、父の周辺を取材したほうが正確な情報は得られると思うんですが、私は、父が語る父のことを聞いてみたいんです。それによって、感情的な交流を……。
長谷川 感情的な交流。交流というと、双方向だと思うんですが、父親から柳さんへの感情というのは、あったんじゃないですか?
柳 殴るときの怒りの感情とか?
長谷川 うん、一方通行のね。ちょっと表現は悪いですが、柳さんを感情のはけ口にしていたわけですよね。
柳 そうですね。だけど、感情のはけ口にされた側としては、その感情がどんなものなのかを見極める余裕がなかった。父がどんな顔をしていたのかも思い出せない、というか、顔は見ていなかった……。
長谷川 自分を守るのに必死だからね。でも、交流というと、どうなんでしょうか? 今日、どんな形で、今日、どんな現象が起きれば、交流になるんでしょうかね?
柳 う〜ん……理解ですかね……。
長谷川 だれが、なにを、理解?
柳 私が。
長谷川 柳さんが。
柳 父を理解。
長谷川 お父さんの、なにを?
柳 それは、論理的な理解に到らなくても、感情的な理解でもいいんですけれども……。
長谷川 理解っていうと、理解者と被理解者がいるわけです。理解されるひとはお父さんで、理解するひとは娘ですよね?
柳 ええ。
長谷川 それでいいのかな? それで、交流になるの?
柳 というのは、私を父に理解してもらわなくていいのか、ということですか?
長谷川 交流というのは、互いに入り交じることですからね。
柳 理解し合う、ということですよね。
長谷川 うん、でも柳さんは、お父さんを理解したい、としか言わない。お父さんに柳さんを理解してもらいたい、という気持ちはないんですか?
柳 う〜ん……難しいですね……理解してほしい…… 理解してほしい、というのは、しっくりこない気がする……。
長谷川 お父さんは、今日、どうして、ここに来るんでしょうか?
柳 「来てほしい」とお願いしたからでしょうね。
長谷川 今回、どんな風に「来てほしい」と言ったんでしょうか?
柳 担当編集者の石井克尚さんが「来てほしい」とお願いしたら、「行く」と約束してくれたんです。
長谷川 柳さんが「来てほしい」とお願いしたら、来てくれなかったかもしれない?
柳 そもそも、その「来てほしい」というお願いができない。なにかをお願いしたのは、私の記憶では、学校を退学処分になったときが、最初で最後です。
長谷川 担当編集者の石井さんがお願いしても、もし、接点、交流を持とうという気持ちがまったくなければ、お父さんは「行く」とは言わなかったでしょうね。
柳 でしょうね。
長谷川 だとしたら、お父さんのほうでも、柳さんとなにがしかの接点を持ちたい、という気持ちを持っていたのかもしれないですね。
「パパ、死ね」にアンダーライン
柳 長谷川さんは、親と子両方をカウンセリングする、という場合もありますか?
長谷川 非常に多いです。

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柳 母と娘、母と息子、父と娘、父と息子。
長谷川 両親と子どもという場合もありますが、ここまで交流がないというケースは……。
柳 あぁ、交流はあるわけですね……。
長谷川 えぇ、たいていは。感情のぶつかり合いも含めて。
柳 なるほど。
長谷川 柳さんの場合は、申し訳ないけど、レアケースです。
柳 交流が、ない。
長谷川 交流がないというか、娘なのに、父親に対して何の思いもない。
柳 ないんですかね……。
長谷川 感じられない。
柳 う〜ん……。
長谷川 たとえば、娘の場合はね、父親に対して、いろいろ複雑な思いを抱いていて、カウンセリングに来る前に父親にそれをぶつけて、こじれてこじれてっていうケースが多いんだけど、柳さんにはそれがない。お父さんに対する気持ちがない。それとも、諦めて、眠らせているんだろうか?
柳 いっしょに暮らしていた小学生のころは、強い気持ちを持っていたような気がするんです。私、小学生のとき日記を書いてたんですよ。小四か小五のとき、細かい文面は忘れてしまったんですけど、「パパ、死ね」と書いたんです。つぎの日の朝、学校行くときに、靴を取り出そうとしたら、下駄箱の上に日記帳が画鋲でとめてあったんですよ。「パパ、死ね」の箇所に赤線が引いてあって、ヤバイ、って心臓がドキドキしたんですけど、そのまま学校に行きました。帰宅して、まだそのままだったのか、私が画鋲をはずしたのか、母がはずしたのかは憶えていないんですけど、父にはなにも言われなかったんです。いつもは戸を閉めるときに音を立てたとか、眠っている父親をまたいでトイレに行ったとか、些細なことでボコボコにされるのに、赤線を引いて展示されただけで、それっきりなんの反応もなかったから、かえって印象に残ってるんですよ。
長谷川 赤線って、どんな風に引いてありました?
柳 ええっと、「パパ、死ね」の下にビーッと、アンダーラインですね。
長谷川 線をぐしゃぐしゃにして文章を消すんじゃなくて、アンダーライン。何故、アンダーラインだったんでしょうね?
柳 何故なんでしょうね。
長谷川 で、そのページをひらいて画鋲でとめてあった。
柳 ちょうど目の高さの、下駄箱の上にとめてあったから、「あっ!」って。今、はっきり浮かんだんですけれど、わりとくっきりしたアンダーラインで、ボールペンじゃなくてサインペンですね。アンダーラインは右側のページに三ヵ所。「パパ、死ね」、三ヵ所ですね。
長谷川 見せたかったんだよね、きっと。アンダーラインを引いて。
柳 読んで、傷ついた、ということなんですかね?
長谷川 そう思う?
柳 傷ついた、ということを知ってほしい。
長谷川 おれは傷ついているんだぞ、というアピール。
柳 じゃないですか?
長谷川 私は違うことを考えているんだけどね。むしろ反対のこと。気持ち、どんな気持ちだったか、訊いてみたらどうですか? お父さんにその行動を取らせた気持ちというのを。
柳 忘れているかもしれないですよね。私も、さっきから考えているんですが、その日記帳がどうなったのか、どうしても思い出せないんですよ。消しゴムで消すにしてもアンダーラインは残っちゃいますからね、そのページを千切って棄てたのかな? でも、そのつぎのページから、また何事もなかったように日記をつづけるっていうのも考えづらいですよね? 日記、やめたのかな? 完全に記憶から抜け落ちてしまっている……。
長谷川 柳さんは、どうして「パパ、死ね」と書いたんでしょうか?

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柳 たぶん、殴られたあとに書いたんだと思うんですよ。
長谷川 殴られたのなら、「殴られた」と書いてもいいわけだよね。でも、柳さんは「パパ、死ね」と書いた。その間になにがあったんだろう? 柳さんの心の中で。
柳 うん、でも、日記は半ば父に見られることを意識して書いてたのかもしれません。あとで六畳のピアノ部屋を増築したんですが、そのころは、八畳二間ですからね。居間と寝室しかありません。そこに、ちゃぶ台や洋服笥や鏡台や勉強机がひしめき合っているわけです。父は、パチンコ屋が終わって家に帰ると、子どもたちのランドセルをひらいて、筆箱の鉛筆をナイフで一本一本削ってましたし、父は日本語の読み書きがほとんどできないから、私の国語の教科書で、ひらがなやカタカナや漢字の書き取りをしていることもありました。
長谷川 じゃあ、見てもらうために書いたの?
柳 ……そこんとこは、ちょっと思い出せませんね。
長谷川 「パパ、死ね」と書く以前の心の動きが知りたいんです。殴られて、死ねと思うまでに、どんな心の変化があったのか?
柳 殴られて、家を飛び出したんじゃないかと思うんです。
長谷川 どういう思いで飛び出したの?
柳 「死んでやる」と思ったんじゃないですかね。
長谷川 「死んでやる」? どうして「死んでやる」?
柳 生きてるのが嫌だから。
長谷川 自分が生きているのが嫌なの? 何故、父親に殴られて、生きているのが嫌になるの?
柳 家にいるのが嫌だから。
長谷川 どうして嫌なの?
柳 父がいるから。
長谷川 父がいると、どうして嫌なの?
柳 父がいると、父で家が占められてしまうから。
長谷川 占められるというのは、占領という意味?
柳 父に占領されている家ですね。母や私が家の中に居場所を見出そうとすると、父と衝突するわけですね。
長谷川 じゃあ、柳さんは、お父さんのことが嫌いだったんですか?
柳 いや、母にはよく「美里はパパっ子だから」と言われてたし、弟や妹には「いつも、パパはお姉ちゃんを贔屓してた」と言われるんです。
父と二人の旅行
長谷川 うん、ほかの家族から見るとね。でも柳さんは、お父さんが嫌いだった?
柳 いや、うんと小さいころは好きだったと思うんですよ。「パパ、アラン・ドロンみたい。パパと結婚する」ってよく言ってたそうですからね。私は憶えてないんですけど、あとで母から聞きました。
父との楽しかった思い出もあるんです。『キユーピー3分クッキング』っていう番組があったんですけど、あるとき「パパといっしょにクッキング」父子二十組一泊二日の旅ご招待みたいな企画があって、葉書で応募したら抽選に当たっちゃったんですよ。で、観光バスに乗って、父と私で二人掛けのシートに座って、どの席も父子、父子、父子のペアで、バス全体が明るい楽しそうな雰囲気で、私と父もその雰囲気の中で浮いていなかった。
長谷川 自分の気持ち、思い出せませんか?
柳 バスの中で、父の横顔をちらっと見て、「笑ってる。楽しそうだな」と思ったような気がします。
長谷川 楽しそうなお父さんの顔を見た自分は、楽しくなかった?
柳 う〜ん、思い出せないですね。
長谷川 こんな風に、いつも笑ってるお父さんだったらいいな、とかそういう気持ちは?
柳 ないですね。自分が笑ったり、はしゃいだりしたような気はしないですね。ただ、はっきり憶えているのは、目的地に着いて一泊して、翌日父と料理をつくったんですけど、そのあと自由時間だったんですよ。湖畔の宿で、私、緑色のカエルをつかまえたんですよ。そのカエルをてのひらに隠してバスに持ち込んで、父に「なにを隠してるんだ、見せてみなさい」と言われて、ぎゅうっと握っちゃって、で、潰れちゃったんですよ。帰りのバスの中ではずっと、父に「手を開けなさい」と言われつづけて、どんどん握り締めるから、カエルの内臓が飛び出して、そのドロッとした感覚と、生ぐさい臭いをはっきりと憶えてますね。結局、おしっこを我慢できなくなって、パーキングエリアのトイレでてのひらにくっついたカエルの死体を流したんですけど……。

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by office-nekonote | 2010-03-24 22:53 | | Comments(0)


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