母と協力して父に粘り強く断酒を勧める
母と協力して父に粘り強く断酒を勧める
https://aspara.asahi.com/column/nayami-okotae/entry/TqaG0SJlDD
アルコールは健康を害する薬物
信田 さよ子(のぶた・さよこ)
臨床心理士、原宿カウンセリングセンター所長。1946年岐阜県生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了(児童学専攻)。病院勤務などを経て、1995年より現職。アルコール依存症、摂食障害、ひきこもり、DV、児童虐待に悩む人やその家族のカウンセリングを行っている。著書に「タフラブという快刀」「母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き」「共依存・からめとる愛」ほか多数。
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父の飲酒問題が心配です。マキ(24)
Q、 岩手県三陸沿岸の某市で漁業を営む55歳の父のことで相談します。震災当日、両親はたまたま大阪の私の家を、初孫のお食い初めのために訪れており無事でした。ふだんは忙しい両親ですが、私が両親の反対を押し切って結婚して以来、初めて孫の顔を見るために大阪に来てくれたのです。
地元に残っていた弟とは連絡がとれず、テレビで東北各地の被害が明らかになるにつれ、両親は私たち夫婦の制止をふりきって交通機関を乗り継いで戻って行きました。後継者である21歳の弟の行方はいまだにわからないままです。自宅も半壊となり、両親の老後の青写真もすべてが津波によって変わってしまいました。あの時期に両親を大阪に呼んだことが果たしてよかったのか、弟だけが犠牲になったのかもしれない、と考えるといまだに眠れない日々が続いています。
夫と2人で、狭いけれど私たちと同居したらどうかと勧めたのですが、両親は固辞し「早く漁にもどりたい」と主張しています。
先日、夫が休日を利用して大阪から車で1週間実家の片付けを手伝いに行ったのですが、父の様子が心配だというのです。やっと避難所から自宅に戻った母から電話で詳しい状況を聞きましたが、朝から飲酒をしているようです。ふらふらしながら港に行き、漁師仲間と酒を飲んでそのまま眠ってしまうことも多いといいます。食事はほとんど取らず、夜は失禁もたびたびだとか。それを注意すると母に殴りかかったり、やっと住めるようになった居間の壁を叩いたりするようです。
漁師は酒を飲むのが当たり前の土地柄だったので、幼いころから酔っている父しか記憶にありません。機嫌のいい時は私と弟をかわいがって船に乗せてくれましたが、機嫌が悪い時は、飲んで家具を壊したり電子レンジを投げたりしました。何よりつらかったのは母に対して手を上げることでした。私が地元に残るのを拒否し、東京の専門学校に入ったのも父のそんな姿を見るのがいやだったからです。やっとの思いでこぎつけた結婚式では、泥酔して泣く父に恥ずかしい思いをしました。
このまま父を放置したらどうなってしまうのか心配でたまりません。弟が行方不明になった上に父から手を上げられ、失禁の世話までしている母のことを思うとつらくなります。私に何かできることはあるでしょうか。具体的な対策を教えてください。
アルコールは健康を害する薬物
A、遠い大阪で小さなお子さんを抱えたまま、津波の被災地で暮らす両親に何かしてあげられないかと必死でお考えのマキさんのお気持ちはいかほどでしょう。飛んでいくわけにもいかないぶん、焦りと無力感が日々積もっているマキさんにたいして、私なりの精いっぱいのお答えをしたいと思います。
アルコール依存症
まずお父様をアルコール依存症という視点からとらえてみましょう。アルコール依存症は習慣飲酒(ほぼ毎日のように習慣的に理由なく飲む)から、問題飲酒へと進行していきます。中には飲み始めた直後からいろいろ問題を起こす人もいますが、マキさんのお父様はまじめな漁業従事者だったのでそんなことはなかったでしょう。依存症と医師から診断されるには、身体的依存、精神的依存、さらに家族や友人への影響といった側面から多面的に判断されることになっています。
身体的依存は客観的に把握できるため比較的わかりやすく、量が多いかどうか、頻度はどうか、手が震えるか、肝機能数値(ガンマGTP)が高いか低いかといった客観的指標で判断できます。一般の人の理解もその影響を受けていますが、家族がどれほど困っているかも大きな要素だということをわかっていただきたいと思います。それに、近年のアルコール依存症者には手が震えたりする人は少なく、中には週1回休肝日を設けている人もいるくらいです。
基本的知識を少し述べておきますが、アルコール依存症者の平均寿命は52歳です。多くの有名人がこの年齢で亡くなっていることを考えると、酒は百薬の長というより発がん性もある命を縮める可能性の大きい薬物だと思わざるを得ません。おそらく肝臓を酷使すれば30年ほどで耐用年数が切れるのでしょう。近年では膵臓のほうがむしろ飲酒の影響が深いと考えられるようになっています。若年性のアルコール依存症者の中には、急性膵炎を何度も繰り返した末に20代末で重度の糖尿病を発症している例も珍しくありません。
お父様の状態で気になるのは失禁ですね。大量に飲酒するとブラックアウト(記憶障害)が起き、トイレの場所を間違えて排尿したり、排便して下着を汚したりといった行動が出ます。これが繰り返されていれば、おそらく膵臓や肝臓にもなんらかの影響が表れている可能性があります。
震災後増加するアルコール依存症
アルコールは嗜好品であると同時に薬物です。人生の困難に直面した際にはその衝撃や苦悩を和らげると同時に、身体的障害を引き起こし周囲の人を苦しめる機能も果たすという両面をよく知っておく必要があります。
マキさんのお父様も避難所にいる時はあまり飲酒できなかったはずです。神戸の避難所で酒に酔った人の行動が他の被災者に迷惑をかけた例が多かったので、今回の東日本大震災では避難所では飲酒を自粛するように求められました。心のケアのために避難所を訪れる臨床心理士の人たちも、眠れない時には寝酒より医師に相談して入眠剤を適量服用することを勧めています。
ところが多くの善意の人たちや知人からの見舞品の中に、「酒好きだから」という理由でアルコールが入っていることは珍しくありませんでした。そこには「酒はいいものだ」という世間に流通している常識が横たわっています。これらの常識を身に着けた人たちは、震災後のつらい日々を乗り切るために好きな酒を飲むことはいいことだと考えるでしょう。
すべてが津波に押し流された光景が目の前に広がり、漁業も壊滅状態、長男も行方不明という現実に直面したマキさんのお父様にとって、アルコールの酔いだけが、つかの間の苦痛からの解放をもたらしてくれたのかもしれません。多くのアルコール依存症の人たちも、耐えられないほどの苦痛を抱えて生きるためにアルコールという薬物摂取を必要としたのかもしれません。
神戸での調査によっても、震災後3年たったころにアルコール依存症による死亡者が増大したという結果が示されています。アルコールは他の薬物のように、障害が早く表面化するわけではありません。健康をじわじわとむしばんでいくために2、3年経ってから表面化してくるのです。今回の震災においても、復興が進むいっぽうで、数年経ってからアルコール依存症で死亡する人が増えるのではないかという懸念を抱いています。
本人にどう働きかけるか
このような知識を得ることは、マキさん自身がお父様の飲酒にふりまわされないために必要なのです。多くのアルコール依存症者が同じような経過をたどりますから、お父様の状態を少し客観的にとらえられるようになるはずです。できればその知識をお母様と共有していただきたいと思います。もっとも身近で暮らしているのはお母様なのですから。
大阪とご実家の中間点あたりで、お父様とマキさん一家が会うことは可能でしょうか。たとえばお父様をご主人に車で迎えに行ってもらい、マキさん母子は大阪から飛行機で行き、温泉地で落ち合うといった計画を立ててみましょう。お母様には理由をつけて同行しないでもらいましょう。きっとそのほうがお母様にとっても息抜きになるはずです。
そのときお父様が素面に近い状態でいられるようにとりはからい、マキさんから話してみましょう。「酒量が多いと身体に影響が出る、これから漁業を再興していくためにも元気でいてほしい。だから短期間でもいい、断酒をしてほしい」と。
おそらくお父様は言下に否定されるに決まっています。自分の人生にアルコールはなくてはならないものであり、ましてこのような人生最大の危機において酒を飲むことがなぜいけないのだ、と怒られるかもしれません。しかしひるまないでください。
「私はお父さんのことを心から大切に思っているから頼むのだ」と伝えることをやめないでください。
ご主人からは、常々妻のマキさんが父親のことを思って心配しており、アルコールの影響についても勉強している様子だと話してもらいます。タブーはアルコール依存症という言葉です。そう口にしたとたんに「俺をアル中扱いするのか」と聞く耳を持たなくなるからです。また「病院に行ってちょうだい」という言葉も逆効果です。「俺を病人扱いするのか、精神病じゃないぞ」と反撃されるからです。
何より確実なのは、短期間だけ飲まないでほしいと頼むことだと思います。そしてお父様が今置かれている状況の過酷さへの共感とねぎらいを忘れないようにしましょう。機嫌を悪くして、聞かなかったふりをすることもあるでしょうが、孫もいっしょの温泉宿で娘から誠心誠意懇願されたことは忘れないものです。その結果少しでも飲酒量や回数が減れば、とりあえずそれでよしとしましょう。
手を上げる=暴力をふるう
マキさんの幼いころからの記憶の中に、お父様がお母様に手を上げる光景が残っています。それをはっきりと「暴力をふるう」と言い換えましょう。手を上げるという婉曲な表現は問題をあいまいにするだけで何の意味もありません。
父から母への暴力をDV(ドメスティック・バイオレンス)といいますが、マキさんはDVを幼いころから目撃してきたことになります。酔うと暴力をふるいやすくなりますので、DVとアルコール依存症は深い関係をもっています。お母様は長年酔ったお父様からのDVを受けてきたと言えます。
DVへの対処としては逃げることしかありません。お父様が酔っていようがいまいが逃げることが大切です。しかし多くの被災地ではどこに逃げればいいのでしょう。避難所から修理された自宅にもどった家族が、震災前より仲良くなれるわけではありません。むしろ周囲のコミュニティが破壊された中で、閉ざされた家族だけが取り残された状態になっています。夫は仕事を失い、そのイライラから酒を飲み、それをたしなめる妻をどなり殴る、こんな光景がやっとの思いで戻った自宅や仮設住宅で繰り広げられているのではないかと思うと胸が痛みます。
とりあえずできることから始める
お父様のアルコールと同様、DVの根絶が無理なら可能な限り減らすことでしょう。減らすのはお父様といっしょにいる時間です。それがお母様の暴力被害を減らすことにつながるのです。昼間の外での活動(それが収入になればラッキーですが)を増やせないか提案してみましょう。夕食後、できれば別室で過ごすことができないか工夫してみましょう。お父様は敏感に妻が自分を避けるようになったことを察知するはずです。それを責められ問い詰められたら、マキさんと同様、できるだけお父様が素面に近い状態の時を選んで伝えるのです。
「私はあなたが酔った状態の時いっしょにいるのが怖い。ずっと若いころから暴力をふるわれてきたからだ。できればアルコールをやめてほしい、そして私に暴力をふるったり、大声でどなったりしないでほしい。これから生活を再建するために協力して生きていきたいと思っている。私が安心してそばで暮らせるためにも、アルコールをしばらく飲まないでほしい」
マキさんは遠い大阪からお父様とお母様に別々のメッセージを伝えなければなりませんね。しかし、それがご両親に対する最大の支援だと思って実行してください。今は携帯メールなど遠方でもつながれる方法ができたので、特にお母様とは綿密な打ち合わせもできるはずです。
マキさんのような子ども時代を過ごしたことで、とうてい父親を許せない、自分のグチの聞き手・不満のはけ口として利用してきた母親とは縁を切りたいという人は珍しくありません。しかしご質問の文章の端々からは、いろいろつらいことはあったけれど今は両親のことを心より大切に思っているマキさんの真情が伝わってくる気がしました。
DVや飲酒の問題はあるものの、お父様とのあたたかな思い出が残っているのですね。そしてお母様に対しては、残りの人生を幸せに暮らしてほしいと願っていらっしゃるのでしょう。震災からの復興は気が遠くなるような長い道のりでしょうが、できるところからやっていくしかありません。それと同じように、家族の問題も可能なところから少しずつ実行していくことが、結果的には確実な変化を生むと思います。
私の提案をそのように受け止めていただければ嬉しく思います。
信田 さよ子(のぶた・さよこ)
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| 2011-08-03 21:40
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